【フィーカ&ヒュッゲ】北欧の知恵と私だけのマドレーヌ習慣

木のテーブルの上で、キャンドルの灯りと焼き菓子、開いた本が並ぶ静かな読書の時間。


どこからともなく懐かしい音楽が流れてくると、そこにある陽射しごと、あの頃へトリップします。

味や香りも、一瞬で昔の記憶へ。

Et tout d’un coup le souvenir m’est apparu.
――そして突然、その記憶が蘇った。

フランスの作家プルーストの名作、
『失われた時を求めて』の一節です。

主人公が紅茶に浸した甘いマドレーヌを口にした瞬間、忘れていた幼少期の風景が鮮やかに蘇る。

この現象は「プルースト効果」と呼ばれています。

幼い頃に感じた、温かさ、安心感、満たされた幸福感。それらは、ある瞬間に過去から戻ってきて、思っている以上に私たちを癒やしてくれます。

そんな「マドレーヌ体験」はありますか?

母の「げんこつドーナツ」

油で揚げるチリチリという音とともに、甘い小麦の香りが漂い始めると、あのお菓子だと、一瞬で思い出す。

母の手作り、揚げたてのドーナツです。

子どもの頃、昭和の薄暗い台所からふんわり漂ってきたあの香り。

我が家のおやつは、ホットケーキミックスを溶いて油で揚げた、穴の開いていない「げんこつドーナツ」でした。

「ともこちゃんの家のドーナツは、穴が開いてて、輪っかやねん」と私が言うと、母は言いました。

「うちのドーナツは、げんこつです」

――うちのドーナツが、素敵なリングになる日は来ない

しかし、口の中で外側のカリッとした食感と温かい生地が混ざり合い、手についた油まで甘く感じられたあの時間。

何物にも代えがたい満足と幸福感に満ちていたおやつ時間でした。

大人になり、沖縄を訪れ、サーターアンダギーを揚げる甘い小麦の香りが漂ってきた一瞬、母の声とともにあの時間が蘇ったのです。

親に守られて生きていた頃の幸福感。おしゃれなリング型よりも、「げんこつ型」が愛おしくてならないひと時でした。

子どもの視線に学ぶ「マインドフル」なひととき


子どもの頃は、夢と現実の境目が、まだ曖昧だと言われています。

以前、保育園で働いていたとき、おやつを食べる子どもたちを見て気づいたことがあります。

2歳くらいまでの子を、観察してみると、誰かに見られていることにも気づかず、ただ食べることに集中している姿。

彼らの視線は定まらず、ぼんやりと、どこか遠くを見ているようです。もしかすると、あの瞬間、子どもたちは「夢と現実のあいだ」

つまり「今ここ」にすっぽりと入り込んでいるのかもしれません。

副交感神経が優位になった、とてもリラックスした状態。

この純粋な「今」の積み重ねが、将来の彼らを支える「マドレーヌ体験」になるのかもしれません。

北欧の知恵「フィーカ(Fika)」と「ヒュッゲ(Hygge)」

木のテーブルの上で静かに揺れるキャンドルの灯りと、そばに置かれた白い小花。


この「今ここ」を大切にする文化を、北欧の人たちは習慣として持っています。

フィーカ(Fika): スウェーデンの習慣で、コーヒーやお菓子と共に親しい人と心を通わせる「休息の時間」。

ヒュッゲ(Hygge): デンマーク語で、居心地の良い雰囲気や、満たされた時間から生まれる幸福感。

私がコペンハーゲンで過ごした午後も、まさにそんな時間でした。

窓の外は低い雲に覆われ、街は少し灰色だった記憶があります。でも、木のテーブルの上には温かいマグカップとシナモンの香りがするパンがありました。

コーヒーカップを両手で包み、じんわりと伝わる熱が、ゆったりと、心地よく。

灯りの色、器の質感、窓からのうっすら暮れかけた陽射し。五感を通して「今ここ」に戻る時間は、自分とゆったり向き合うための大切な習慣です。

北欧の人たちが高い幸福度を保っている理由は、こうした「何気ない時間を慈しむ知恵」にあるのは、間違いなさそうです。

「私だけのマドレーヌ習慣」3つのステップ

夕方の光の中で、マグカップを手に静かに飲み物を味わう女性の横顔。


忙しい毎日の中で、おやつが単なる「小腹満たし」や「作業中のエネルギー補給」になってはいないでしょうか。

「タイパ(タイムパフォーマンス)」を追求する日常から離れ、5分だけ。「マドレーヌ習慣」を取り入れてみましょう。

五感に意識を向ける(観察) 
食べる前に、お菓子の色、形、香りは?
それを作ってくれた人、届けてくれた人に想いを馳せると、自然と感謝が湧いてきます。

一口を慈しむ(味わい)
スマホを置き、最初の一口が舌に触れる感覚、どんな感じですか? 鼻に抜ける甘い香りが、心地よい。

「在る」を感じる(充足)
「甘い」「温かい」という感覚を丁寧に受け取ってみる。自分はすでに、これほど豊かなものに囲まれているという充足感へ意識を向けます。

最後に

幸福は「味わう力」の中にあります。

特別な場所へ行かなくても、特別なものを買わなくても、目の前の一杯のお茶とひときれのお菓子。

丁寧に味わうだけで、体の細胞ひとつひとつの豊かさとつながり、癒されていく。

そんなふうに意識を向けてみてください。

あなたが今日口にする甘いひとくちが、未来のあなたを救う「幸せな記憶」になりますように。

思考を深めたい方への一冊

「私だけのマドレーヌ習慣」を深める上で、大きな気づきをくれる書籍をご紹介します。

食べることを通じて自分を整えたい方は、ぜひ手に取ってみてください。


マインドフル・イーティング 過食から自由になる心理学

ジョン・カバット・ジン氏の著書『マインドフルネスストレス低減法』