温めることと、冷やすこと

サロンの窓から見える春の庭とチューリップ



私がアーユルヴェーダサロンで施術をしていた頃。

施術前に意識を向けていたのは、季節の気候や自然のサイクルに合わせて、「冷やすこと」と「温めること」でした。

リラックスや心地よさはもちろんですが、もうひとつ、体の仕組みについての知識も、施術を考えるうえで大切にしていました。

そのひとつとして、褐色脂肪細胞を例にあげてみます。

脂肪なのに、熱をつくる不思議な細胞の正体

「脂肪」と聞くと、お腹まわりにつく、あのうんざりする白い脂肪を思い浮かべます。


しかし、私たちの体には、それとは異なる性質を持つ褐色脂肪細胞があります。

褐色脂肪組織には、冷たさに反応し、脂肪などをエネルギー源として「熱」を作り出す働きがあるのです。

成人では、首や鎖骨周辺などに存在することが知られています。体温を一定に保つために、私たちが意識しなくても体の中ではさまざまな調整が行われているのです。

人の体には、そんな興味深い仕組みが備わっています。

サロンでやっていたこと


夏は、暑さで体にこもった熱をクールダウンするために、ローズウォーターを使っていました。

サロンへ入られたお客様に、ローズウォーターを含ませたひんやりしたタオルをお渡しします。首元へ当てると、暑さの中を歩いてきた体から、ピッタ(熱のエネルギー)を緩和するのです。

冬は反対です。アーユルヴェーダでは、冷たさや乾燥が強くなる季節は、ヴァータの性質が増えやすいと考えるのです。

そこで使っていたのが、小豆入りのハーブボウル。足湯をしながら、温めた小豆のハーブボウルを肩や首、肩甲骨、鎖骨へ。

小豆のやわらかな重さと温かさを、ゆっくりと伝えていきます。

同じ首元でも、夏には冷たさを、冬には温かさを使っていました。

心地よさというサイン


褐色脂肪細胞のように、体の仕組みを知ることは大切です。でも、サロンを続けながら私が感じるようになったのは、知識は、そこにあるだけでいいということ。

施術をするとき、もっと大切なのは、目の前にいる人の体がどう反応しているかを見ることでした。

温めることと、冷やすこと。
圧をかけることと、かけないこと。

同じ人でも、その日の体によって心地よい場所は変わります。

シーソーの真ん中に立っているところを想像してみてください。右でもなく、左でもない。

ちょうど真ん中でバランスが取れた瞬間、体がふわっと浮き上がったような感覚になり、余計な力を入れなくても立っていられます。体も、それに似ています。

冷たいものに触れた瞬間の体の反応。
温かいものに触れて、肩の力が抜ける。
反対に、わずかに体が強ばることもある。

体は、言葉より先に反応します。だから施術する側が、持っている知識を十把一絡げに当てはめてしまってはいけない。

目の前の体から返ってくる小さなサインを受け取りながら、その人にとっての心地よさを探していく。

サロンで人の体に触れていた頃、私が見ていたのは、そんな小さな変化でした。

アーユルヴェーダの経典も、解剖学や生理学の知識も、体を見るための大切な地図です。しかし、地図と、目の前にある風景は同じではありません。

体は、教科書どおりではないということです。

自分のその日の状態に合わせて、
ストレスのないメンテナンスであるか。
そこに心地よさはありますか?

日常のセルフケアや、サロン選びの参考にしてみてください。 

アーユルヴェーダの経典とカスミソウ